かつて「金と原油は同じ方向には流れない」という諺がありました。
今はあまり聞きませんが、この概念を理解すると、これからの世界で何が起こるのかを垣間見ることができます。
貴金属界隈では、貴金属価格は人為的に抑制されているというのは広く受け入れられている考えです。
紙とデジタルの通貨を主流とする経済システムの中で、本物のお金が幅を利かせることがないようにするために中央銀行が価格をコントロールしているといるものです。
しかし金と原油という観点から物事を見ると、少し違う展望が開けます。
1970年代、サウジアラビアや他の中東原油産出国は金をスポット価格で購入し始めたため、金価格が高騰し始めました。
原油産出国の立場からすれば、これは当然ともいえる動きす。
原油産出は莫大な利益をもたらす事業ですが、いつの日かは資源は枯渇することは分かっています。
原油を採掘し西側諸国に売った後には燃やされ、中東に戻ることはありません。
そのため原油産出国としてはジレンマがあります。
いつかは枯渇する資源を売って今は巨額の富を得ていたとしても、いつかは枯渇してしまう。
資源が枯渇した後の世代にどうやって富を受け継がせていくのかという頭の痛い問題があります。
そのため原油を売った対価を利用して永続する富を入手するわけですが、中東諸国が選んだのは金でした。
原油を売ったお金で金を買ったことから、「金と原油は同じ方向には流れない」という諺が生まれるようになりました。
この動きは西側諸国にとっては違う問題を生み出すものでした。
中東から原油を買えば買うほど、代わりに金が買われてしまうため、結果として金価格が高騰してしまうという問題を生み出しました。
中東諸国が大量の金を購入すれば、価格が高騰しドル体制が揺らいでいきます。
最終的には、米ドルを中心した国際的な金融システムまでが破壊されてしまうという懸念を抱くようになりました。
つまり金の価格を変えなければならなかったわけです。
同じ頃別の問題も発生していました。ヨーロッパで通貨不安が起こりつつあり、代替通貨であるユーロの発行を急いでいました。
さもなければ米ドルも引きずり込まれてしまうリスクが発生している最中、金価格が高騰する事態が発生したわけです。
金価格を抑えなければ、ユーロ発足前に米ドルが崩壊するという危機感があったようです。
当初は金現物を売ると同時にドル買いをすることで、米ドル体制を支えていましたが、いつまでも続けるわけにはいかず新たな仕組みを考案しました。
金採掘企業のバリックゴールドとLBMAの共同により、ペーパーゴールドを発行しました。
金現物を直接売るのではなく"金保有証書"を販売する一方で、金現物は中央銀行の保管庫の保管し続けるという方策に切り替えました。
当然ながらこれは価格抑制のためのメカニズムです。
バリックゴールドは未採掘で地中にある金に対しても保有証書を発行するようになり、それらの証券は中央銀行保有の金の裏付けを持つこととされました。
証書に対して支払われた代金には金利が支払われることにもなりました。
時間の経過とともに、保有証書は実際に採掘保有される金の量を遥かに超えて大量に発行されるようになり、ペーパーゴールドの市場が誕生しました。
現物がないのに、証書だけは大量に発行し売り買いがなされるというシステムが生まれたのは、中東諸国の原油との関係性があったためです。
結果として中東諸国はOPECを創設して原油価格をコントロールする一方で、LMBAは金価格をコントロールするという構図になったわけです。
LBMAの証書はイングランド銀行が保証することになっていました。
LBMAは未採掘の金の証書を大量に販売する一方、OPECも未採掘の原油証書を発行し、これらの証書同士が取引されることになりました。
1991年からサウジは年間622トン分のペーパーゴールドの購入を開始し、そこには一部を現物で受け取るという契約が追加されました。
これはサウジアラビアにとっては、最終的には大量の金を入手する手段となり、お互いにメリットがあるものでした。
しかしここで妨害が入りました。
この動きを察知した中国か香港と思われるアジアのグループが、ロンドンの金現物を大量に買い占めて香港に移動するという動きに出ました。
ロンドンの金が大量に流出したため、デフォルトのリスクが高まりました。
担保していたイングランド銀行のリスクが発生したのはもちろん、米ドル体制をも脅威にさらすものでした。
そして同じ頃、ヨーロッパ中央銀行が担保する14000トン相当のペーパーゴールド証券が償還時期を迎えていました。
BISの会議で対応策が話し合われましたが、危機感を覚えたブンデスバンクの代表が金現物の販売とリースを直ちに停止しなければ、大惨事が発生すると発言しています。
そして問題の発生源であるLBMAが消え去ることになるとも発言しました。
この直後、ワシントン金条約と中央銀行金条約が締結され、理由は分からないもののアジア初の金買い占めは止まるようになりました。
この時はLBMAは解体されずペーパーゴールドの市場も生き残りましたが、現在の金融市場の脆弱性が表面化しました。
金と原油はドルよりもはるかに強いということも歴史は証明しています。
ここ最近は貴金属の大量購入があちこちで聞かれるようになりましたし、ペーパー市場は拡大の一途を辿っています。
アメリカ債務時計によると、ペーパーシルバーと現物の比率は390:1です・
ペーパーゴールドと現物の比率は119:1です。
G7のGDPと金の比率によると金価格は$72,280で、BRICSは$136,417です。
もはや中東諸国はアメリカに忖度することはなくなりましたし、金がドルを崩壊させる日は近いのだと思います。
ペーパーの市場がデフォルトを起こす時に、金と銀の価格はどれくらいになるのでしょうか?