銀の現物に投資する人であれば、銀の価格操作について一度は聞いたことがあると思います。
数年前にJPMがスプーフィングと呼ばれる手法で、大々的な仕方で価格操作をしたため巨額の罰金を支払ったことでも明るみに出ました。
とは言え価格操作に関して言えば、JPMは氷山の一角にすぎません。
アメリカ政府は銀価格を押し下げることを政府の方針だと公表したことがありました。
ジャンクシルバーと呼ばれるコインは1965年以前のコインですが、この年に当時のジョンソン大統領は貨幣法に署名しました。
ジョンソン大統領はこのように発言しています。
「銀コインをため込もうと考えている人には、こう言いたい。
財務省は大量の銀を保有しており、それは現在の銀の価格を銀コインの価格と釣り合うようにすることができるし、そうすることになる。
含まれている銀の価値のために、流通するコインをため込んだとしても利益が出ることはないだろう」
1965年以降、アメリカ政府の保有する戦略的銀備蓄はどれくらいの期間続いたのか、そして銀価格抑制のためどれくらい使用されたのかは不明ですが、
コレクターと投資家は、「利益が出ることはない」とジョンソン大統領が宣言したことの正反対の事をやり始めました。
流通するコインのかき集めて、保管することでインフレ対策を行い、額面価格をはるかに超える資産を手に入れることになりました。
JPMは政府の債券を取り扱うプライマリーディーラーであり、特に財務省と近いことが知られています。
2006年にSLV(銀ETF)が開始した時、JPMは証券保管機関となりましたが、価格操作が激しいとして何度も注目を集めることになりました。
JPMのCEOのジェイミーダイモンは、同銀行はクライアントのためにトレードをしているだけで、貴金属を所有することには関心がないと発言しています。
2012年にコモディティトレーディングデスクのトップ、ブライスマスターズがCNBCに出演し、特に銀について強調しました。
上の動画の中で「ブログ等の中で様々な推測が行われているが、我々のビジネスを誤解していることに起因している」と述べています。
そして「我々のビジネスは、クライアントの財政面とリスク管理の目標を達成するために取引を行う、クライアントのニーズに応えるものである」としています。
「我々はポジションを相殺するので、価格の上下で利益を得ていません」と主張しています。
CNBCのレポーターはJPMのクライアントが誰なのかに関しては踏み込みませんでした。
後にJPMが銀先物取引市場でスプーフィングによる価格操作で有罪判決を受けたときに、クライアントの正体が判明しました。
ブルームバーグの記事によると、JPMは貴金属業界の最大手でクライアントの中には中央銀行が含まれていることが指摘されました。
少なくとも10の中央銀行がJPMの保管庫に貴金属を保管していることが裁判記録で判明しました。
From Profits to Pay, JPMorgan’s Gold Secrets Spill Out in Court
JPMによる価格操作の舞台であるCMEグループのコメックスですが、こちらでも同様の構図が見て取れます。
CMEグループはデリバティブ取引を行うクライアントの中には政府と中央銀行があることをSECへの報告書の中で認めています。
そして中央銀行インセンティブプラグラムなるものを提供しており、政府、中央銀行や国際機関など多額の取引を行う機関に対しては優遇手数料を適用しています。
1934年金準備法では、米財務省が世界中のあらゆる市場で介入することが認められています。
Central Bank Incentive Program
結局のところ、JPMにしてもコメックスにしても"クライアント"である政府と中央銀行のためにトレードをすることで、クライアントの存在を見えにくくする役割を果たしています。
しかしどうやらここにはアメリカ政府以上の存在が関係しているようです。
上で書いたCMEグループは国際機関に対しても優遇手数料を導入しており、この機関がどのようなものなのかという疑問もあることでしょう。
2005年にBISの幹部は、会議の中で中央銀行間の協力の主な目的は「資産の価格に協調して影響を与えること」であると明言しており、各国の中央銀行に指令を与えていることが分かります。
このように見ていくと、銀の価格操作は世界中の中央銀行が共同で関与しており、BISが大元にいる構図が見て取れます。
BIS official: Central banks cooperate to influence gold price
数日前に米国鋳造所がブローカーに対してアメリカンイーグル銀コインの卸価格を引き上げました。
スポット価格よりも$3ドル以上高い価格になるようですが、当然小売価格はそれ以上ということになります。
価格操作はできても銀の現物が足りないのか、あるいはBISが価格上昇のゴーサインを出したのかは分かりませんが、現在の通貨制度を守るために全力で銀価格を抑え込んできたことは、この金属がどれくらい重要なのかを物語るものだと思います。